「送惠充上人之高野山」 恵充上人(けいじゅうしょうにん)高野山へ之(ゆ)くを送る |
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夙願君業進 今恨君学成 学成何所恨 遠近人争迎 妙選竟難辞 抛此白社盟 迢遞鼎臺遠 蒼茫薇海横 別離老愈難 此行轉愴情 菅 茶山 |
夙(つと)に願う君が業の進まんを 今 恨(うら)む君の学成るを 学成るは何の恨む所ぞ 遠近人争い迎えて 妙選 竟(つい)に辞し難(がた)し 此の白社の盟を抛(なげう)つ 迢逓(ちょうてい)たり鼎台(ていたい)遠く 蒼茫(そうぼう)たり薇海(びかい)横たわる 別離老いて愈々(いよいよ)難し 此の行転 情を愴(いた)ましむ |
恵充上人…徳田宝泉寺住職のち高野山に入った。 妙選…念入りに選ぶ。 白社…清い仲間。 迢逓…遠くへだてること。遠いさま。 鼎台…高野山 薇海…瀬戸内海 |
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【大意】かねてから君の大成を願っていたが、今こうして君が学問を成就したことを恨めしく思う。学問を成就させたことの何を恨めしく思うのかといえば、遠近の人々は、みな競って君を迎えるだろう。そして、よく吟味してわが身のふりかたを選択しようにも、君はついに断れない立場になってしまうことだ。この郷里での契りをなげうって君ははるか高野山へと上って行き、青く広々した瀬戸内海が横たわるばかりだ。年老いればますます別れがつらく、この旅立ちは私の心を悲しませることだ。 【出典】『黄葉夕陽村舎詩』後編八−一所収 |