平成23年度菅茶山顕彰会定期総会&記念講演

昨年五月二十一日(土)神辺町商工文化センターで平成二十三年度菅茶山顕彰会定期総会が開催された。開会に先立ち、平成二十二年三月十一日、突如東日本を襲った大震災の犠牲者の冥福を祈って出席者一同黙祷、次いで会場正面に掲げられた菅茶山の肖像画に向かって目礼。

開会の挨拶で、高橋孝一会長は初代高橋令之会長から継承した来し方二十年を顧みて、近年とみに、西原千代氏「菅茶山」出版、神辺町出身、埼玉在住の書芸家中江星雪書「月を迎える」の中央書壇での受賞など茶山顕彰活動が広がりを見せていることを祝福。

議事では二十二年度事業報告・会計決算報告、次いで二十三年度事業計画・会計予算が提案され、いずれも満場一致で可決成立した。事業計画では特に茶山の命日、八月十三日「茶山墓参の集い」への一般会員の参加が呼びかけられた。

総会後、演題「『黄葉夕陽村舎詩』の成立」で県歴史博物館主任学芸員西村直城氏による講演があった。周知のとおり「黄葉夕陽村舎詩」を含む茶山の「黄葉夕陽文庫」は平成七年茶山の子孫によって県歴博へ寄贈された。爾来、西村・岡野主任学芸員らによって鋭意研究調査が進められ、すでに同文庫収蔵資料を概括した研究紀要「目録」が刊行され、近々、図書館などを通じて、広く一般の閲覧に供されるという。この日の講演は「黄葉夕陽村舎詩」草稿本から刊行本に至る校正・採否などを含む成立過程についての研究発表。講演後、関連質問が続出。講師への謝辞で高本正人副会長が「郷土の至宝、誇り」と締めくくった茶山への関心の深さが窺えた。
講演『黄葉夕陽村舎詩』の成立 要旨
資料1『黄葉夕陽村舎詩』成立の経緯
-「『菅茶山の世界』文芸社 2009年(岡野将士執筆担当)p.p.136~139」から引用-
①江戸時代後期、茶山の詩は江戸の儒者亀田鵬齋や幕府大学頭林述齋(現在の文部科学大臣)にも高い評価を受けていた。その名声を不動のものにしたのが文化九年(1812)の「黄葉夕陽村舎詩-前編」の刊行である。文政六年(1823)年の同後編、天保二年(1831)年の同遺稿と併せて三編二十三巻、二千四百首余から成る詩集である。
*『黄葉夕陽村舎詩』掲載詩作成年代等
区   分 巻 数 & 冊 数  詩作成年代 編 者 等 出版年
前 編
附録
菅耻庵詩集 巻之一~巻之八(四冊)

巻之一~巻之二(一冊) 天明二年(35歳)まで~文化六年(62歳) 編 頼山陽
序 小原業夫
跋 小寺廉之 文化九年
1812
後 編 巻之一~巻之八(四冊)
前巻拾遺(巻之一・二) 前編以降(62歳)
~文政三年(73歳) 編 北条霞亭 文政六年
1823
遺 稿 巻之一~巻之七(二冊) 後編以降(73歳)
~文政十年(80歳) 編 頼山陽
  菅惟縄 天保三年
1832
②当時、詩集の刊行は、自費出版」が通例であった。しかし、この詩集は出版元が経費負担、仕様は茶山の希望どおり、それに弟恥庵(1800年歿享年33歳)の遺稿を附録とするという好条件で話が持ち込まれ出版された。さこそそのように待望久しい出版で、案の定ベストセラーになった。
④出版元河南儀兵衛は発売を急ぐあまり、未校正の「悪本」を発売。次の校正済み「善本」は巻尾に武元登々庵の五言古詩が掲載されていることから識別可能。
⑤「黄葉夕陽文庫」に関わる照会が現在でも国内外、諸分野の著名な学者、研究者から県歴博へ続き、「知る人ぞ知る」その業績の偉大さに感服させられる。
資料2『黄葉夕陽村舎詩』巻之一冒頭収録詩の比較
①茶山は草稿から刊本に至る最後の最後まで繰り返し詩の校正を重ねている。草稿本はA稿~J稿に区分される。大坂奉行所出版願用とされるI稿は刊本と異なっている。最終稿J稿が刊本と同配列になっている。
②茶山は納得の行く作品を出版するために、名波魯堂(A稿)、六如上人(E稿)、頼山陽(G稿)ほか多くの人に批正、校正を求めている。
③D稿から書名が「黄葉夕陽村舎詩」となっている。それより以前は「茶山樵響」「金粟園集」(B稿)-漢詩の種類(五言絶句、七言絶句)別、「菅茶山樵響」(C稿)-作成年代別などの仮題、分類がなされている。
④刊本「有鳥三首有感而作」の次に所収予定だったと思われる四首(例 歎齋)のように草稿本では浮かんでは消え、最終的には割愛されている作品もある。
*歎齋→茶山の政治批判詩の一つ。西山拙齋の政治批判詩集「休否録」に所収されている。茶山詩十七編、うち三編(「窮隣」「即事」「丁屋路上」)の他は刊本から姿を消している。因みに「歎齋」は田沼意次の長子意知を誅殺した義士を称える内容。山陽の「忌諱に触れん」との評を忖度、茶山が割愛したものと考えられる。(参考文献「菅茶山」西原千代著(株)白帝社2010年)
⑤また、「米山寺拝謁小早川中納言肖像」のように「詩題」そのものに変更は無いが、内容が草稿と刊本とでは異なっているものもある。