菅茶山顕彰会
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菅茶山の漢詩を石碑に刻んだ茶山詩碑は、福山市神辺町を中心に各地に多くあります。
HP菅茶山新報掲載の詩碑を紹介します。
  1. 『御領山大石歌』     上御領
  2. 備後国分寺和歌碑    下御領
  3. 「聯句戯贈如實上人」  備後国分寺
  4. 『高屋途中』        上御領
 『御領山大石歌
神辺駅詩碑  神辺町上御領
御領山頭大石多
或群或畳闘嵯峨
大者如山小屋宇
迥如万牛牧平坡
吾嫌世上多猜忌
楽子無知屡来過

此日一杯発幽興
吾且放歌子妄聴
如今朝野尚因循
苛有所為触渠嗔

憐子剛腸誰采録
不如聾黙全其身
石兮石兮林栖野処 得其所
韜晦慎勿近囂塵

逢仙化羊已多事
参僧聴経非子真
況作建平争界吏
況為下授書人
   菅茶山

【読み】
御領山頭 大石多し
或いは群し或いは畳し嵯峨を闘わす
大なるは山の如く小なるは屋宇(おくう)
はるかに万牛を平坡(へいは)に牧するが如し
吾は世上猜忌(さいき)多きを嫌い
子の知る無きを楽しみて屡(しばしば)きたり過ぎる
此の日一杯 幽興(ゆうきょう)を発し
吾且らく放歌す 子妄(みだ)りに聴け
如今 朝野 因循(いんじゅん)をたっとび
いやしくも為す所あれば かれの嗔(いかり)に触る
憐れむ 子の剛腸(ごうちょう) 誰か采録せん
如かず聾黙して其の身を全うするに
石や石や林栖野処(りんせいやしょ) 其の所を得て
韜晦(とうかい)慎んで囂塵(ごうじん)に近ずく事なかれ
仙に逢い羊に化す 已(すで)に多事
僧に参じ経を聴くは子が真に非ず
況んや建平界を争うの吏となって
況や下(かひ)書を授くるの人と為るをや

【大意】
御領山上には大石が多い。あるものは群がりあるものは重なりあって、けわしくいりくんでいる。大きものは山のごとく、小さいものは家ぐらいだ。
見渡すと、はるか遠方の堤で多くの牛を放牧しているようだ。

さて自分はこの世間にねたみ、そねみ、が多いことをきらう。おまえ(石)がそのような世情について何もかかわりのない相手であるのが楽しくて、度々ここへ来るようになった。
今日、一杯の酒によって、心の奥にわだかまるおもいを発散しよう思う。

これから、心のおもむくままに歌をうたうが、お前(石)はいいかげんに聴いてくれよ。

この頃は、朝野とも人々は信念のない世渡り上手が多い。少しでも筋を通してなにかしようとすれば彼らのご機嫌をそこねる。お前の気骨があるのを誰がとりあげ認めてくれるだろうかと気の毒におもう。それかと言って世が世だもの、まあ開かず言わずで、身を全うするより外はあるまい。

石や、石や、お前は人里はなれた林や野に住んでいるとはお似合いの場所だ。そのままいつまでも世間へ出て来て俗塵に、ちかずかぬがいい。

中国には、石が仙人に逢うて羊になった話があるが、それはもう余計なこと。石が僧の説教を開いたという話もあるが、それもお前の持ち前ではないだろう。まして、同じ石でも、建平界を争う石、下で張良に三略を授けた黄石公になろうとも思って居ないだろう。
【出典】『黄葉夕陽村舎詩』前編一−六
 化羊…羊飼いの故事
参僧聴経…東晋虎丘山で経を講じた時一人も聞きに来ないので、庭石に聞かせたら、最高潮の場で石がうなずいたという故事
建平争界吏…郡と郡との境に二人が背中合わせした石像がたっている。役人の争い。
授書…史記にある話で張良が秦の始皇帝の暗殺に失敗し、下の地に隠れていた。其のとき橋の上で黄石公に兵法書三略を授けられた黄石公は石と化した。
 
 
 備後国分寺和歌碑

神辺町下御領 備後国分寺
 訪いよれば 袖も色濃くなりにけり
籬の露の 萩の花摺り
               晋帥
【読み】 
訪(と)いよれば 袖も色濃くなりにけり
籬(まがき)の露の 萩の花摺(はなず)り
               晋帥(ときのり)
如実上人 … 国分寺の元禄の再建より4代目の住職
晋帥 … 菅茶山の本名
この石碑の揮毫は『茶山詩五百首』で知られる故 北川勇 氏である。 
 
 
 「聯句戯贈如實上人」
 
神辺町下御領 備後国分寺
上人好事爲花顛
唯愛名花不愛銭  拙斎 

爲是年年購奇種
下山時乞衆生縁  晋帥


如實上人に呈す聯句 
事四十年前に在り
今此れを書し 愴然 

文政辛巳(1821)仲秋 菅晋帥再行
 
【読み】
 上人好事(こうず)花のために顛(てん)ず
 ただ名花を愛して銭を愛さず 拙斎

 是れ年年奇種を購(あがな)うために
 山を下って時に乞う衆生(しゅじょう)の縁  晋帥 
【大意】
上人は好事家で、花のためには逆立ちしても惜しくはない。
ただ立派な花を愛して、銭には愛着がない。
だから、毎年花の奇種を購うために、山を下りて(寺をから里へ出て)衆生に時々銭を乞われる。
【出展】『黄葉夕陽村舎詩』前編二十
 
 好事…珍しい変わった物事を好むこと  
 愴然…悲嘆にくれるさま。いたみ悲しむさま。
 如實上人…国分寺元禄の再建より4代目の住職。紀州高野山から国分寺に転住。和歌を好み、草花を愛(め)でた。
 
 「高屋途中
 神辺町上御領 一里塚跡
山雲半駁漏斜陽
樹蕭條十月霜
野店留人勧蕎麺
一籃銀縷出甑香
 

【読み】
山雲半駁(はんばく) 斜陽を漏(も)らす

樹(こうじゅ) 蕭條(しょうじょう)たり十月の霜
野店人を留めて蕎麺(きょうめん)を勧(すす)む
一籃(いちらん)の銀縷(ぎんろう) 甑(こしき)を出でて香ばし 
【大意】
山雲がまだらにかかり、雲間をもれた夕陽がさす。一里塚の樹も十月の霜にいためられてすっかりさびれてしまった。その傍らの野店が旅人を呼び止めてそばを勧めている。甑の中から取り出した小さなざるの中のそばは銀糸に似てうまそうだ。

【出典】『黄葉夕陽村舎詩』後編二−一一 
半駁…駁はまだらの馬、転じて雲がまだらにかかっている様子。
樹…一里塚に植えた樹木。
蕭條…もの寂しいさま。
縷…細い糸筋。ほそながいもの。